腎臓病と食事
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胃腸病と食事の関係
管理栄養士 鈴木久美子の「健康の泉」



腎臓病において 「食事療法」は非常に大切です。

腎臓病では 糸球体がおかされるために血液の濾過作用がうまくおこなわれず 水分やナトリウムが体内に溜まりやすい状態になります。

同時に 尿中に出されるはずの老廃物が 体内に増えてきます。
その結果 窒素が血液中に増えて 尿毒症の原因となったり ナトリウムが増えて高血圧になったりということがおこります。そのため食事療法では 適正な「塩分」「水分」「蛋白質」「エネルギー量」を維持することが必要となります。
塩分腎臓病があっても 高血圧やむくみのない人は無理に塩分の制限をする必要はありません。

しかし 日本人の塩分の摂取量は多く 10g以下にすることはたとえ高血圧やむくみがなくても必要です。 高血圧やむくみのある人は 塩分制限が必要で それは腎蔵の機能の状態に応じた量となり 医師の指示に従います。

普通は 一日に5~7g 程度の制限となります。
自分勝手に 厳しすぎる塩分の制限をすることはかえって良くないときがあります。
多尿期には低ナトリウム血症にならないように かえって必要になる場合もあります。

蛋白質
蛋白質は三代栄養素のひとつで 体にとってとても重要な働きをするものです。 しかし 腎臓病では 蛋白質の制限が特に重要で 蛋白質の量が多くなると腎臓にかなりの負担をかけてしまいます。
腎不全の人は これ以上腎機能を悪化させないように蛋白質の摂取量を 栄養障害が起こらない範囲での制限が必要となります。

通常は 一日に20~40g 程度の制限になることが多くなります。
蛋白質制限をしっかりとおこなうことは 腎臓の働きを助けるために大変効果的で すぐにも透析をしなければならない人が低蛋白の維持によって 5~6年も透析をしなくて済んだ場合もあるくらいです。

また 尿中にたくさんの蛋白質が流れ出て 血液中から失われてしまう「ネフローゼ症候群」では これを補うためにこれまでは高蛋白質食にするのが通常でしたが 最近ではかえって腎臓を痛めて症状を悪くすることが解り 逆に軽い蛋白制限にするようになってきています。

蛋白質は制限されていても 動物性蛋白質を(プロテインスコアの高い蛋白質)を適度に取り入れていくようにします。
エネルギー量(熱量)人が生活するためには 一日約2000kcal ほどのエネルギー摂取が必要となりますが 腎臓病 特に腎不全の場合はきびしい食事制限で食欲も低下し エネルギー不足になりがちです。

それに蛋白質の制限により 蛋白質からエネルギーを得ることが出来ないため更に エネルギーが不足しがちになります。

しかし エネルギーを十分に摂ることは 同じ量の蛋白質を摂っていても老廃物や毒素に相当する尿素の発生が少ないと言われています。
これを「熱量の蛋白節約作用」と呼びます。
エネルギーが十分になると 蛋白質の分解が少なくなり 尿素の発生が少なくなるためです。

それは 脂肪と糖質で十分にエネルギーを摂ることになり 特に腎不全では蛋白制限以上に 適正なエネルギーを摂ることが重要と言われています。 このためには 普段の食事の中でだけでは難しいので 腎臓病の特殊食品として いろいろな高エネルギー低蛋白食品が開発されてきています。

高エネルギー低たんぱく食品の代表的なものが、「でんぷん製品」です。
でんぷん製品は、”まずい”といった先入観がありますが、最近のでんぷん製品は、研究されており調理方法をしっかりと学べば、普通のお食事と遜色のない、調理ができます。

でんぷん製品は高エネルギーなうえに、極端に「タンパク質」が低いので、腎臓病の方には最適です。
最もエネルギーを取り入れる主食に、ご飯・蕎麦・うどん・パスタ・薄力粉・ホットケーキミックス・海老せんべい・クラッコット・ラーメンなどがありますので、これらを利用しますと、おかずに肉や魚をしっかりと摂ることができますので、栄養のバランスも良くなりますので、療養食としては最適です。。

でんぷんの主食をしっかり取ることで、透析治療を大幅に遅らせることができるといったデータも出ております。

水分
浮腫がひどいときや尿量が少なすぎるときは 塩分だけでなく水分の制限も重要となります。
この場合 飲み水だけではなく食品に含まれる水分量も含めます。
浮腫がなかったり 軽い場合は塩分制限だけになります。
この場合の水分制限は 病気の状態や尿量により医師が判断します。
脱水になると かえって腎臓の機能低下に繋がるので 自分勝手な制限はしてはいけません。

カリウム・リン
ネフローゼ症候群ではナトリウムやカリウム代謝に欠くことの出来ないホルモン(アルドステロン)の分泌過剰がありカリウムが失われることがあります。
一方 腎不全では濾過量が減り 尿細管での再吸収や排泄機能の障害によって 高カリウム血症の危険がおこります。
この場合は カリウムの制限が必要になります。
また 腎不全によって 糸球体濾過率が 正常の1/4以下になると血液中の無機リン値が上昇します。
このような 高リン酸血症がおこると 腸からのカルシウムの吸収が低下して 低カルシウム血症がおこります。

このような高リン酸血症では 食品中のリン値を制限します。
カリウム・リンが制限される場合 カリウムやリンの高い食品を制限することになるわけですが カリウムやリンを含むものには蛋白質が多いということもあり 蛋白質制限をしっかりしていれば 通常はカリウム・リンの値は低くなります。
カリウム制限が厳しい場合は カリウムは水に溶けやすいので「茹でこぼす」「浸水する」などによってカリウムを下げます。

<各腎臓病の食事療法>
急性腎炎
急性腎炎は糸球体が急性の炎症を起こした状態で「急性糸球体腎炎」とも言われます。 原因の多くは「溶血性連鎖球菌(溶連菌)」の感染がもっとも多く 風邪・扁桃炎・猩紅熱などと診断され治療によって症状が消えた頃起こることが多い腎炎です。

この場合 風邪や扁桃炎によって毒素が血液中を巡り 腎臓において抗原抗体反応によって起こった腎炎で 症状として浮腫・蛋白尿・血尿・高血圧を伴うことがあります。

大人では極期を過ぎると 1~3ケ月後に治ることが多いのですが 中には急性炎症が続いたり慢性腎炎へ移行することもあります。 治療は安静・保温・食事・薬物療法となり 食事療法では 高カロリー・低蛋白・減塩・水分制限を症状に応じておこないます。

慢性腎炎
急性腎炎が治らず一年以上も経過した場合 最初から健康診断などで慢性腎炎と診断される場合の2タイプがありますが 通常後者のタイプが圧倒的に多くみられます。

はじめから慢性腎炎と診断されるタイプでは いくつかの原因が複雑に絡み合っておこると考えられますが(血液循環障害・高血圧・糸球体のアレルギー反応など) 腎炎がおこると糸球体を流れる血液が血行を妨げられ 時には毛細血管が詰まって血液が流れなくなります。

慢性腎炎の 10%は経過中に治癒 50%は臨床的にほとんど進行しない 残りの40%ほどが進行するタイプのもので 進行するタイプの約半数は透析へと移行すると言われます。

症状は多種多様で 軽いものではなんの異常もみられないばあいもありますが 慢性・急性腎炎では腎臓の血管(特に動脈)が病変をおこすた
め 高血圧が通常みられます。
それ以外にも蛋白尿・血尿・浮腫・貧血などの症状がでる場合もあります。 治療は 安静・食事・薬物療法となり 食事療法では 状態によって
異なり 腎臓の機能が正常なときは常食で可能ですが 高血圧・ネフローゼ症候群があれば 塩分制限や蛋白の適正量摂取となり 腎臓の機能が低下していれば 蛋白・塩分・カリウム制限が必要になります。

<慢性腎炎の食事療法>
� 高カロリー 標準体重×35~40kcal/日
� 蛋白質 0.5~1.0g/体重(kg)(BUNの上昇がある場合)
� 減塩 5~8g/日
� 低カリウム (血清カリウムが上昇の場合)40mEq/日
� 水分制限 (症状に合わせる)

ネフローゼ症候群
ネフローゼでは必ず 高度の蛋白尿と低蛋白血症がみられます。

それに加えて 時には 浮腫や高コレステロール血症・高脂血症がみられます。
蛋白尿では 血漿蛋白の中でも分子量の小さいものほど透過しやすいので アルブミンが尿中に出やすい傾向があります。 低蛋白血症では尿中に蛋白質が大量に排泄されることにより 血液中の蛋白質が減ることが原因でおこります。

この場合も 特に低アルブミン血症がおこります。
食事療法は高蛋白・高カロリー・塩分制限ですが 腎機能の症状に応じて異なります。ネフローゼの初期には 浮腫が現れた場合は 塩分・水分の制限をします。

蛋白尿や低蛋白血症があるので 蛋白の制限はしません。 エネルギーは十分に摂ります。
脂肪は 高コレステロール血症があるときは低コレステロール食で 不飽和脂肪酸を多く摂るようにします。

<ネフローゼ症候群の食事療法>
� 高カロリー 標準体重×30~40kcal/日
� 蛋白質 0.5~1.5g/体重(kg)
􀀀減塩 3~7g/日
� 高カリウム (低カリウム血症の場合)
� 水分制限 (症状に合わせる)

糖尿病性腎症
糖尿病の3大合併症は「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」「糖尿病性神経症」です。

糖尿病は全身の最小血管に障害がおこりますが 長い間 高い血糖が放置され これに他のホルモン異常 代謝異常が加わり疾患がおこります。 これが糸球体に起こったのが糖尿病性腎症です。 糖尿病性腎症では 「血糖コントロール」をおこないながら 血管の動脈硬化を起こす「高血圧」のコントロールも同時におこないます。

よって糖尿病性腎症の食事療法は 糖尿病の食事制限の中心である「エネルギー制限」を基礎にしながら 高血圧の治療や腎臓の機能を考慮し「塩分制限」「蛋白制限」「カリウム制限」を同時におこなうことになります。 したがって 同じ指示エネルギーの中で「蛋白質」からのエネルギーを減らすことになり 「糖質」・「脂質」が増えることになります。

長い間 糖尿病のエネルギー制限により「糖質」「脂質」をかなり制限されてきた人にとっては ここで今まで制限してきた「糖質」「脂質」が増えてしまうので戸惑わないようにすることが必要です。

「糖尿病の食品交換表」を使用してきた人は 「糖尿病性腎症の食品交換表」に切り替え 各表の指示単位が変わります。

(「蛋白質」「カリウム」の制限が 同じ指示エネルギーの中で加わるため 「糖質」「脂質」からのエネルギー量が増え 「表1」「表3」「表4」が減り「表5」の値が増え「特殊調整食品(低蛋白高カロリー食品)」が新しく使用されることがあります)

<糖尿病性腎症の食事療法>
 �糖尿病の指示カロリー
� 蛋白質 0.6~0.8g/体重(kg)
� 減塩 6~8g/日
� 低カリウム
� 水分制限 (症状に合わせる)

慢性腎不全
慢性腎不全の原因は 上記に記述したとおりで 慢性腎不全に至らないためには 原因となる病気を悪化させないことが大切となります。

慢性腎不全になると 不要物質を体外にすることができないので 血液中の残余窒素の量(BUN)が増えてしまいます。

また 健康時には血液や細胞の中に一定量存在する ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・クローム・リンなどの電解質が過剰 または不足状態になります。

水分の排泄や調節も出来なくなり いろいろな要素が絡み合い最終的には尿毒症がおこってきます。
食事の治療方針は 水分・塩分・蛋白質制限 糖質・脂肪によるエネルギーを十分に摂ることを主としたものになります。
また 尿量がかなり減少したときには カリウム制限が必要になります。
腎不全のために 糸球体濾過率の低下によって 高リン血症がおこっている場合は 低リン食にする必要があります。

透析食(血液透析)
腎不全が重くなると 透析をおこないます。

血液透析の場合 透析液と血液を透析膜を介して接触させ 体内から老廃物や水分を除き 必要な物を逆に体内に送り込むようにします。

血液透析は 通常一週間に2~3回 一回4~6時間おこなわれます。
血液透析を始めたときの食事管理は おこなう前より蛋白質の制限は解除されますが 尿量が減るため「減塩・カリウム・リン・水分」は厳重に制限されます。

<透析食の食事療法>
� 高カロリー 標準体重×35~45kcal/日
� 蛋白質 1.0~1.2g/体重(kg)(週3回透析)プロテインスコアの高い
� 脂肪 エネルギーの30~35% (動物性脂肪を控える)
� 減塩 5~8g/日(高血圧や浮腫があると制限が厳しくなる)
� 低カリウム 40~50mEq/日 (週3回透析)
� 低リン 800~900mg/日以下
� 水分制限 (透析間の体重増加を5%以下にする)

★腎臓の治療用特殊食品★
腎臓病の食事療法においては 「高カロリー」「低蛋白」 また「低ナトリウム」「低カリウム」「低リン」など制限が多くなると 通常の食事の中では難
しい面が多く このような時のために「腎臓病のための治療用特殊食品」が市販されています。

� 高カロリー低蛋白・・・粉飴・マクトンパウダー(オイル)・低蛋白(ごはん・パン・そば・うどん・低蛋白米・餅・小麦粉・  菓子)・ホットケーキ粉
� 低塩・・・減塩(醤油・味噌・マヨネーズ・ケチャッブ・ドレッシング)
� 低リン・・・ミルク・菓子
� カルシウム強化・・菓子



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